2014年01月08日
この国において、最も知られる日本の地名は「トーキョー」ではないのかもしれない。
サッカー日本代表の東欧遠征を追い、初めてセルビア北部のノビサドを訪れた。タクシーに乗り、こちらが日本人であることを告げると、多くの運転手が「ナゴヤ!」と言って、ほほ笑む。
街角でもそう。物売りの女性から丁寧な日本語のあいさつを受けた。「ワタシハ、ナゴヤガ、ダイスキデス」
理由はすぐに分かった。セルビアサッカー界の至宝、ドラガン・ストイコビッチ氏の存在にほかならない。
同氏はJリーグ・名古屋グランパスの元スター選手にして現監督。愛称の「ピクシー(妖精)」は、人口40万人の地方都市でもおなじみだ。「ナゴヤ」とともに、現地の人々と友好を図る貴重な共通語となった。
事前にセルビア通の知人から聞いてはいた。「ピクシー? 日本で例えるなら、長嶋茂雄さ」。その知名度の高さには恐れ入る。
だから、こんな得もした。日本代表の取材を終え、練習場からタクシーに乗車。宿泊先のホテルに到着すると、運転手は運賃を受け取らなかった。
なぜか。「会社のボスに、日本人記者から料金を取るなと言われているんだ」。滞在で受けた歓迎のすべては、ピクシーのおかげだと思っている。 (小杉敏之)