2016年07月23日

　「あなたここで何をやっているの。身分証を見せなさい」

　モスクワ市内の学校に設けられた投票所で警官に呼び止められた。先月下旬、政権与党「統一ロシア」が行った予備選を取材した時のことだ。投票風景を撮影しようとしたら鬼のような形相で女性警官が制止した。

　予備選は、９月の議会選の候補者を絞り込むのが目的。今回初めて有権者は誰でも投票できる方式になり、主要政府系テレビは鳴り物入りで宣伝し、多くのアパートでは入り口の掲示板に予備選投票を呼びかける同党のビラが目立った。

　それでも市民の関心は低かった。件（くだん）の投票所では昼すぎでも投票する市民はまばら。高齢者ばかりで若者は皆無だった。

　日本の記者だと記者証を見せると、選管の女性は「別に問題ありませんよ」と言った。警官はいったん引き下がったがなおも疑い深そうな目付き。無線機で何やら連絡を取っている。

　「出来レース」だとして大半の外国メディアが注目しないなかで、取材は歓迎されて良さそうなものというのは甘い。治安機関にとっては外国人記者は、相変わらず警戒すべき対象のようである。　（常盤伸）