2009年03月19日
毎日、サンフランシスコまでの通勤に長距離バスを使っている。途中約60キロはノンストップだ。同じ時刻の便には同じ顔ぶれが乗って来て、同じような場所に座る。
ある日の夕方、バスに乗ったところでシャンパンの小瓶とプラスチック製のグラスを渡された。運転士が小瓶を配る男性の方に目をやって「彼はきょうで引退だ」。最後の一日の仕事を終え、帰りの便で車上パーティーを企てたようだ。空席に座って周りを見ると、グラス片手に雑誌を読む人、飲みながらコンピューターで残業をこなす人、読書も残業も忘れて隣と話す人。
バスを降りる時に聞いた。「どんな仕事をしていたのか」。すると男性は「このバスの運転士だ」。よく顔を見ると、何度も乗せてもらった人だった。
長距離バスは、ふだん、乗客が開栓した酒瓶を持っていれば乗車を拒否する。しかし、この日だけは“大人の信頼関係”の上で走っていた。
(岡田幹夫)