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台北 深層心理は今も複雑

2009年01月08日

 「まぶたに焼き付いているあの光景が思わずよみがえった」。あの光景とは、台湾でまだ戒厳令が施行されていた1987年以前の街の様子だ。中国の対台湾窓口機関のトップが訪台した際、台北市内は警備陣であふれ返った。昔を知る人はショックを受けた。

 その警備陣と、中国に反感を抱く人らがもみ合う現場にタクシーで駆け付けた時、運転手が窓を開けて突然叫んだ。「台湾、加油(頑張れ)!」。お客そっちのけの振る舞いに激しい感情の発露を感じた。

 居酒屋のおかみは「中国人は礼儀正しい。(トップは)経済を良くするために来たんでしょ。あんな抗議は理性的じゃない」と、バリケードを強引に突破するほどの激しいデモ行進をなじった。

 台湾の人たちの中国に対する思いは複雑だ。普段は表に出なくても、事があれば一気に噴き出す。流血の惨事ももたらしたトップの訪台。さらなる民主化につながれば、と思う。

 (栗田秀之)