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クライストチャーチ 街出ても不安解けぬ

2011年05月03日

 「街を出て行くことを本気で考えているんだが、なかなか決断できなくて…」。ニュージーランド・クライストチャーチ市のタクシー運転手、ジョージさん(68)はこう打ち明けた。大地震は彼が築き上げた安定した生活を一気に不安の中へ陥れた。

 20代でポルトガルからニュージーランドに移住。いくつかの都市を転々とし、最終的に同市に落ち着き、結婚して3人の子どもをもうけた。タクシーや長距離観光バスの運転手をしながら金をため、3台の営業用車両を購入。運転手2人を雇ってタクシー会社に所属しながら、個人営業のような形態で稼いでいるという。

 街の拠点は中心部と空港。中心部は地震で崩壊、観光客も少なく空港でも客がつかない。別の街へ移ったとしても煩雑なタクシーの開業許可申請や慣れない場所での営業など不安は多く、生活が立て直せる保証はない。

 さらに心配なのは娘(26)のこと。中心部の会社で働いていた娘は地震の際、外出していて無事だったが職場の同僚がビルの崩壊に巻き込まれ行方不明に。娘は元気なくふさぎ込んだままだという。

 人口約35万人の同市では7万人以上が市外へ移住したとされる。ジョージさんの心は揺れる。「地震は怖い。だが、移住が解決策になるとは限らない」 (古田秀陽)