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パリ イライラも緩む放送

2012年11月12日

 車掌の口調は弾んでいた。「私たちは幸運です」。フランス北部を走るパリ行き特急。架線トラブルで大幅遅れが告げられ、車内に失望感が広がったときだった。放送で「現在、高速線は1時間に4本しか走らせてくれませんが、その4本にこの電車が選ばれました。これで遅れは40分だけです」。まるでくじに当たったかのような高揚感。乗客は幸運なのか不運なのかと考えているうちに、いらいらが少し消えた。

 当地で、この手の自由な放送によく出合う。

 大統領選期間中、選挙集会に向かう人でごった返した地下鉄で運転士が「オランド(現大統領)支持者は次で降りて。サルコジ(前大統領)が好きな人は私に付いてきてください」。車内灯が一瞬消えて復旧すると「これでサルコジ人気も復活です」などと余計なおしゃべりを続けた。最近、車内アナウンスで、運転士が乗客のだれかに「誕生日おめでとう」と言うのを聞いた知人もいる。

 パリ発マドリード行きの飛行機に乗ったのはサッカー欧州選手権決勝の真っ最中。突然、客室乗務員がマイクで「ただいまスペインが先制しました」。地上とどんな交信をしているのか?だが機内は沸いた。当地の交通機関は予期せぬトラブルが実に多い。しかし、ゆるい放送のおかげで少しだけ和む。(野村悦芳)