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台北 統治時代物語る鳥居

2013年01月11日

 台北市の中心部にある林森公園に二年前、大小二つの鳥居が並んで建てられた。一帯は日本統治時代の共同墓地。大正時代の第七代総督、明石元二郎もここに埋葬された。大きな鳥居は明石総督の墓前、小鳥居はその秘書官の墓前にあったものだ。

 戦後、蒋介石軍とともに移住してきた兵や難民らが墓石を土台にバラックを建築。鳥居は洗濯干し場にもされ、墓地はスラム街になった。それが十三年前、一帯は公園に生まれ変わり、鳥居は別の場所に移転。地元の町会長にあたる里長らの尽力で二年前、ほぼ元の場所に再移築された。

 そして明石没後九十三周年になる今秋、里長ら地元有志と日本から駆けつけた直孫、明石元紹(もとつぐ)氏(78)らが、鳥居の前で慰霊祭を行った。総督の故郷、福岡県からの訪問団は詩吟を朗詠、袴(はかま)姿で槍(やり)を片手に黒田節を舞って鎮魂。地元の国民党女性市議は「ここが新しい観光スポットになってほしい」と期待していた。

 元紹氏によると、墓が掘り起こされた際、遺体を日本に送るべきか親族間で議論したという。しかし「死んだら台湾に埋めろというのは父の遺言だ」という総督の長男で元紹氏の父、元長氏(故人)の一言で、今は台湾海峡を望む新北市三芝の霊園で眠っている。

 (迫田勝敏)