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ニューヨーク 後戻りは似合わない

2015年10月16日

 思わず目を奪われたその女性は、上半身が裸だった。褐色の地肌に米国旗と同じ赤と青、白色のペイントを施し、観光客に笑顔を振りまいていた。年に5000万人が訪れるニューヨークのタイムズスクエア。道行く人たちは「二度見」しては遠慮がちに眺めている。

 記念写真に応じてはチップを受け取るトップレスの女性の一人は「2カ月前にコロンビアから来た。英語は分からないわ」。多くが中南米から出稼ぎに来ているという。

 ニューヨーク州では1992年に「女性はトップレスになる権利がある」との司法判断が出て以来、取り締まりの対象ではない。ところが最近、市長が「問題は裸ではなく、チップを強要することだ」と規制に着手。2009年に始まった歩行者天国を廃止する可能性に触れ、論議を呼んでいる。

 30年前は銃弾と麻薬が行き交った世界最悪の犯罪地帯。今では各地から人が集まる世界の交差点になった。歩行者天国はその象徴だ。撮影中のスリや売春の勧誘などへの対処は必要だろう。だが、にぎわいに水を差すような後戻りは、この街には似合わない。 (北島忠輔)