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上海 街でパジャマ姿、今も

2020年02月20日

 35年前と変わらずプラタナスの並木道が美しい。お上りさんでにぎわう上海一の繁華街北京路に比べ、上海っ子が集う旧フランス租界のおしゃれスポットとして有名な淮海路(わいかいろ)。改革開放政策は始まったばかりで、まだ中国は貧しかった。

 全寮制の学食で毎日食べる中華に耐えきれず、大学が配る糧票(リャンピャオ)(配給券)を握って淮海路をよく歩いた。たまに寄った洋食店「紅房子(ホンファンズ)」が同じ場所に残っていた。当時は現金だけでは食事ができず、配給券が必要。お世辞にもうまいとは言えない料理とコーヒーのような飲み物。それでも心は満たされた。

 激変した大都市上海。田畑が広がっていた外灘(ワイタン)(バンド)対岸の浦東には、世界第2位の上海タワー(632メートル)をはじめ超高層ビルが林立し、近未来の眺めだ。道行く上海女性はより洗練されているが、淮海路は昔と同じたたずまい。

 思い出にひたっていると目の前をパジャマ姿の中年女性が横切った。旧租界の長屋が周辺にあり、昔は暑苦しい夏の夜、路上は簡易ベッドで埋め尽くされた。失うものもなく等しく貧しかった時代。パジャマ姿はその象徴でもあった。 (白石徹)