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上海 租界時代 生き生きと

2021年09月22日

 上海の旧フランス租界にある人気スポットの一角に中国共産党が誕生した「聖地」がある。1921年7月に同党の第1回党大会が開かれた住居跡は記念館となっており、党創建百年にあわせて訪れた大勢の観光客がわれ先にと記念撮影している。

 大会が開かれる直前、大阪毎日新聞の海外視察員として派遣された芥川龍之介も同所を訪れ、「上海游記」で触れている。歴史研究者の陳祖恩(ちんそおん)さんは「芥川龍之介は人民代表の李人傑(りじんけつ)と面会した際の部屋やテーブルの様子を詳細に書き記していた。中国には当時の資料が少なく、30年後に復元する際の貴重な資料になった」と評価する。

 陳さんとともに上海での芥川の足跡をたどってみた。都市開発が進み、日本人が多く暮らした共同租界のホテルや病院は封鎖され廃虚同然。それでも陳さんの話を聞きながら歩くと、当時の人々の息遣いが聞こえてくる気がした。

 陳さんは今、100年前の新聞や雑誌記事をかき集め、上海の庶民史の本を次々と出版している。街が急速に商業化されていく中、租界時代の人々の面影を書き残そうとする研究者の使命感が伝わってくる。 (白山泉)