2022年11月08日
永井荷風の「あめりか物語」には、ニューヨーク市内の海沿いの行楽地を描いた一編がある。「単に紐育(ニューヨーク)ばかりではない、合衆国中に知れ渡って女も男もよく人が話をするのは、ロングアイランドの海岸に建てられた『コニーアイランド』と云(い)う夏の遊場(あそびば)の事である」
そのコニーアイランドは当時から100年余りが過ぎても、ニューヨーカーお気に入りの地だ。毎年7月に恒例のホットドッグ早食い大会が行われ、夏のビーチには涼を求める人々のパラソルが咲く。だが、その近辺の海で今、ちょっとした異変が起きている。
あちこちの海岸でサメの目撃が相次ぎ、かまれてけがをする遊泳客も出ているのだ。いくつかのビーチは一時閉業に追い込まれた。地元メディアによると、気候変動による海水温の上昇が、南の海からのサメの北上を招いているという。
荷風はここを「見世物(みせもの)と云う見世物の種類は、幾十種と数えきれぬ程」「まるで竜宮の城を望むよう」とも記した。ただ、雑多な風物を愛した作家も、サメにまでは出会いたくなかっただろうと想像する。背の広いカメならまだしも。 (杉藤貴浩)