2022年12月05日
「わあ、このへんは昔、森だったんだね」。白人の両親に連れられた小学生くらいの男の子が驚きの声を上げた。ニューヨークにある国立アメリカン・インディアン博物館。壁1面には中心部マンハッタンの地図が掲げられ、白人の入植が本格化する前の地勢が示されていた。
先住民にとって恵まれた猟や採集の場だったマンハッタンは、約400年前にオランダ人が24ドル相当の物品で「購入」した。だが、先住民には土地を私有したり取引したりする考え方がなかったため、両者の誤解は対立に発展。やがて先住民はマンハッタンを追われる。
この地に再び先住民があらわれたのは20世紀。従来の土地を奪われ、厳しい経済状況にあえぐモホーク族の人々が出稼ぎのとび職となり、繁栄を謳歌(おうか)するニューヨークの高層ビル建築を支えた。高所での事故も多かったという。
博物館では、ほかにも先住民の受難や文化の豊かさが展示され、無料で開放されている。負の歴史は巻き戻せないが、人種や民族が違っても学ぶことはできる。帰り道、いつも目にするマンハッタンの摩天楼が少しくすんで見えた。 (杉藤貴浩)