【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 韓国
  5. ソウル 遺骨に見る日韓不和

ソウル 遺骨に見る日韓不和

2022年12月12日

 終戦直後に日本から帰還する朝鮮人らを乗せた船が爆沈した「浮島丸事件」。東京の祐天寺に残る遺骨の返還を望む韓国の遺族たちに取材した際、「墓はないのですか」と尋ねると、「ない。遺骨がないから」と異口同音に返ってきた。

 海外の激戦地で命を落とした日本人戦没者も遺骨がない例は多く、遺影や位牌(いはい)のほか、現地で拾った石を代わりにまつったりする。だが韓国では、遺骨がなければ祭祀(チェサ)(死者を弔う儀式)ができないと考える。

 浮島丸の場合、遺体をまとめて火葬して分骨した経緯も、個別の遺骨を重視する遺族らの憤りを招いてきた。アジア平和と歴史研究所の韓恵仁(ハンヘイン)研究委員によると、長らく土葬が主流だった朝鮮人は、動員された日本で事故死した仲間の遺体を日本人が火葬すると「証拠隠滅では」と反発し、争議に発展したこともあったらしい。

 日韓の文化の違いが、不信に拍車を掛けた面もある。現在は韓国でも火葬が一般的になり、遺骨問題は「以前よりも理解が進んだ状態」と韓さん。今からでも遺族の心情に沿う形で、遺骨の返還が実現してほしい。 (木下大資)