【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. アジア
  5. バンコク 渡れぬ道路 弱肉強食

バンコク 渡れぬ道路 弱肉強食

2022年12月13日

 通勤途中、信号機のない横断歩道の前で、ベビーカーを押しながら立ちすくむ外国人とみられる女性を見かけた。片側4車線の大通り。歩道橋までは距離がある。女性は車の往来が途切れるのを待っていたが、一向に止まる気配はない。

 バンコクは車が多い割に、さほど横断歩道を見かけない。ハイスピードで駆け抜ける車やバイクの間隙(かんげき)を縫って道路を渡るのは、正直怖い。しかし、タイ人の多くは横断歩道のあるなしにかかわらず、車が来ないタイミングを見計らって、ひょいひょいと器用に通りを渡っていく。

 当地で今年1月、横断歩道を渡っていた女性眼科医が警察官の運転するバイクにはねられて死亡する事故が起き、大きな社会問題となった。交通マナーへの意識も高まったと聞いたが、まだまだ浸透しているとは言い難い。

 横断歩道はタイ語で「ターン・マーラーイ」という。訳せば「シマウマの道」。なるほどわが物顔で道路を走る車やバイクは肉食動物で、歩行者は草食動物のシマウマということか−。そんな冗談を考えながら、通勤では少し遠回りをして歩道橋を渡っている。 (藤川大樹)