海辺のリゾートとして近年開発が進むベトナム中部の港湾都市ダナンに、何やら世界一のロープウエーとともにフランス統治時代の避暑地が生まれ変わったテーマパークがあるらしい。世界一の響きに引かれて、バーナーヒルズという高原へ行ってみた。
午前8時、現地ガイドのグエン・フンさん(45)と海岸沿いのホテルを出発。開口一番「バーナーヒルズは今ベトナムで一番有名な場所」と言う。車で西へ40キロ、内陸の高原地帯へ。ダナン市街地は年中温暖だが、海抜1487メートルの高原は夏でも平均気温が20度を下回ることが多い。1900年ごろ、上流階級のフランス人たちが避暑地として切り開いたそうだ。その後戦争で荒廃したものの、近年ダナン市が観光地として注目を集めるのに伴い、再開発されつつある。5年ほど前に市中心部と高原を結ぶ広い道路が整備された。
庶民の主な移動手段であるバイク1台に3人や4人で乗る家族連れが次々とやって来ていた。曇っていたが歩き回ると汗ばむ暑さで、帽子やサングラス姿の客でにぎわう。グエンさんが「ここには1日で四季がある」と説明してくれたものの、このときは意味が分からなかった。
ベトナム各地で遊園地を運営する会社サンワールドの名を冠したテーマパークの、城門のような券売所に出迎えられた。入場料は大人が約3500円、身長130センチまでの子どもは約3000円、身長100センチ未満の子どもは無料。ロープウエーと園内の乗り物やゲームの料金も含む。3路線のうち最長のものが単線で5801メートル、麓の出発地点と終着地点との標高差1368メートルなどが世界一のロープウエーらしい。まず中間地点まで上る路線に乗った。
ぐんぐんと上ったものの、蒸し暑くて汗が噴き出してきた。「真夏は体調を崩す人もいるのでは」と心配したとき、涼しい風を感じた。空調かと思ったらグエンさんが窓を開けてくれたのだ。緑の木々に囲まれ、鳥のさえずりも聞こえた。とても心地よい。
途中トラブルがあったらしく止まった時間も含めて15分ほど乗り、駅に着いた。肌寒くてすぐに上着を羽織る。美しい花々が咲く庭園を歩くだけでも浮き浮きする。フランス人が山を掘って造ったというかつてのワイン貯蔵庫の中も歩いて見学できた。
続いて2路線目のロープウエーに5分乗り、終点へ。窓の外は雲か霧か、ぼんやりと白い。「天空のテーマパーク」との別名に納得。広場に面した大聖堂や高級ホテルなど西欧風の建物が並ぶフランス村と、SF冒険小説などがテーマの遊園地がある。それにしても混んでいる。客はベトナム人が8割、残りは中国、韓国人。運良く出会えた唯一の日本人は社員旅行で訪れていた会社員男性(39)=新潟県小千谷市。スキー場で慣れているのでロープウエーに新鮮味はなかったそうだが、「世界一と聞いて来てみた。まさか山の上にこんな場所があるとは」と活気に圧倒されていた。
帰りはいよいよ世界一の路線で一気に下る。3分の2ほど乗った地点で突然「シャー」という音が聞こえ、強い涼風が吹き込んだ。山の岩肌を白糸のように流れる滝だった。渓谷を渡り麓が見えると暑さが戻り、眼下には密林にバナナの木も。降り立つと、上着はもう不要だった。20分近い搭乗時間で早春から真夏へと季節が変化したように感じ、「1日で四季がある」という言葉の意味がやっと分かった。
文・写真 白井春菜
(2018年4月13日 夕刊)
メモ
◆交通
ダナンへはベトナム航空の直行便で成田国際空港から約6時間、関西国際空港から4時間45分。
中部国際空港からはハノイまたはホーチミンを経由する。
◆問い合わせ
航空券の予約はベトナム航空日本支社=電03(3508)1481。
観光情報はベトナム観光総局の日本語ホームページを参照。
おすすめ
★ダナン博物館
地元の文化や歴史、人々の生活を紹介している。
ベトナム戦争中に大規模な米軍基地が置かれたこともあり、近代戦争についての展示が充実。
説明書きはベトナム語と英語のみだが写真や兵器などの展示物からも戦争の悲惨さが伝わる。
★市場
観光客でも入りやすいハン市場と、主に地元の人が食料品や日用品を調達するコン市場。
どちらもハン川の西にある市中心部に位置し、活気にあふれる。
市場での価格交渉が苦手なら、コン市場の近くに大型スーパーや百貨店もある。
★ビーチ
ダナンからホイアンにかけて美しい砂浜の海岸線が続く。
ダナンには、大型高級ホテルが林立し外国人観光客が多いノンヌォックビーチ、新鮮な海の幸を味わえるレストランが並び地元客にも人気のミーケービーチなどがある。
地元の人は「一年中泳げる」と言うが海で泳ぐなら乾期の3~8月ごろ。