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【三重】東屋から七里御浜の絶景 熊野古道・伊勢路 三重県熊野市

ジャンル・エリア : 三重 | | 歴史 | | 自然  2021年08月05日

松本峠に至る熊野古道・伊勢路の石畳

松本峠に至る熊野古道・伊勢路の石畳

 ジージー、ジージー。じっとりとセミが鳴いている。

 汗まみれになって歩き続けて1時間。岩だらけの山に入り、ようやく東屋(あずまや)に着いた。目の前には大きな岩。ふと松尾芭蕉の句を思い出した。

 閑(しず)かさや岩にしみ入る蝉(せみ)の声

 静かだ。都会の喧噪(けんそう)の中では、全く気にならない手持ちの扇風機の羽音がぶうんと響く。木立の間からは空が見える。他には誰もいない。

 歩き始めたのは昼すぎだ。世界遺産の熊野古道・伊勢路の松本峠(三重県熊野市)を目指し、最寄りのJR紀勢線・熊野市駅を出た。

 古道に入った後は、杖(つえ)をつきながら苔(こけ)むした石畳の坂を上った。空は少し曇っているものの、暑さは容赦ない。普段はしているマスクを外しても息が上がる。汗が止まらない。江戸時代には伊勢神宮と熊野を結ぶ道として使われた古道だ。当時の人も、夏にはこんな苦しい思いをしたのだろうか。そんなことを考えながら足を動かし続ける。

 幸い、出発から50分ほどで無事、松本峠に到着した。目印のように、化け物と間違われて鉄砲を撃ち込まれたという伝承がある大きなお地蔵様がいた。近づいて傷痕を見ようと思ったが、台座のように高く高く盛り上がった土が拒んでいる気がして諦め、近くの東屋に向かった。

熊野古道・松本峠近くの東屋から望む七里御浜=いずれも三重県熊野市で

熊野古道・松本峠近くの東屋から望む七里御浜=いずれも三重県熊野市で

 じっと静けさをたたえた東屋はまた、絶景を見下ろす展望所でもあった。熊野市街や、南に向かって緩やかで長いカーブを描く七里御浜(みはま)が一望できる。美しい。ああ、と思わず感嘆の声が漏れた。

 そのまま山を下りて、海岸沿いの世界遺産「鬼ケ城」を目指すことにした。波や風の浸食でできた奇岩や洞穴がいくつもある。中でも千畳敷は人気のようで、カップルや釣り人らの姿が見えた。山に、海にと景色が美しい街だ。

 翌日は、これまた熊野古道・伊勢路の「波田須の道」を上ることにした。波田須駅から集落の中を通る坂道をひたすら歩き、ぜいぜい言いながら波田須神社に到着。そこから先は、伊勢路では最も古い鎌倉時代の石畳が残る。さほど長い距離ではない。歴史の重み、厚みを、ゆっくりと踏み締めながら歩いた。

 2日間にわたった伊勢路の旅。ほどよい体の疲れとともに心も満足した。都会に戻ると、すぐあの静かな山を思い出した。また行こう。蝉の時季もよかったが、次はすみれの季節にでも。 (金森篤史)

 ▼ガイド JR紀勢線・熊野市駅から松本峠の登り口までは徒歩15分。波田須駅から波田須神社までは20分。熊野市観光協会(電)0597(89)0100