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北京 厄介者の境遇を象徴

2023年07月02日

北京で5月中旬、出稼ぎ労働者を紹介した閉館直前の博物館=新貝憲弘撮影

北京で5月中旬、出稼ぎ労働者を紹介した閉館直前の博物館=新貝憲弘撮影

 中国農村から都市部に出稼ぎに来た労働者をテーマにした北京市内の「打工(出稼ぎ)文化芸術博物館」が閉館した。二〇〇八年に設立されて以来、民間組織による運営で知られてきたが、香港紙「明報」によると、地域の再開発に伴って立ち退きを迫られた上に、資金面の問題から移転先を確保できなかったためという。

 六月初旬に訪問するとまだ参観できたものの、入り口の看板は取り外され、展示物も一部が撤去されていた。中にいた男性支援者(25)は「古い出版物など貴重な資料は、建物が取り壊されるまでに別の場所に運んで保管する」と説明。出稼ぎ労働者が当局から社会の不安定要因と見なされて「敏感な問題」として扱われているため、閉館について「国内メディアはどこも報じない」と嘆いていた。

 民間組織が近くで運営する出稼ぎ労働者の子ども向け学習施設も訪ねた。こちらも学校としての認可が取り消されたため授業はできず、二五年以降の運営見通しは立っていないという。今回の閉館は、中国の経済成長を支えながらも厄介者扱いされてきた出稼ぎ労働者の境遇を象徴している。 (新貝憲弘)