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パリ 親日家の国 縁は続く

2023年10月12日

 「何て日だ」。9月下旬、伝統あるパリ支局を閉鎖するため家具などの搬出を依頼した業者は、悪態をつきながら現れた。

 支局前のシャンゼリゼ通りはチャールズ英国王の訪仏に合わせた装飾の真っ最中だった。業者が車を止めて搬出準備に取りかかった途端に、装飾中の作業員に車の移動を指示されたのが気に食わなかったらしい。だが、そんな彼の態度は、私が日本人だと知ると一変した。「いつか行ってみたい国なんだ」

 3年前の赴任以来、仕事上でも同じ経験を何度もしてきた。日本の新聞だと分かると、街頭や電話で取材を申し込んだ相手の声が弾む。かつて浮世絵が果たした日本文化の橋渡し役を現在では漫画が担い、仏国内の親日家を増やしているからだろう。自身と日本とのつながりを誇らしげに話す人が多かった。

 支局の冷蔵庫を知人宅に引き取ってもらうために搬出業者の車に同乗すると、眼前の凱旋(がいせん)門の上部から大きな仏国旗がはためいている。これも英国王の歓迎用だったのだが、国旗からこんなエールを送られているように感じた。「帰国してからも、親日家たちと日本をつなぐ架け橋になるべきだ」 (谷悠己)