2023年10月30日

パネシージョの丘の聖母像＝吉田通夫撮影

　休暇で南米エクアドルの首都キトを訪れた。８月に大統領選の候補者が暗殺された事件もあり、治安には不安がよぎる。「ケチャップ強盗」といって、液体を背後から振りかけ、親切に拭き取るふりをして、ポケットなどから金品を奪う手口もはやっているらしい。

　パネシージョの丘の聖母像に向かって歩いているところだった。殺伐とした町外れで、背後から女性の声で「ちょっと」。きたか！　恐る恐る振り向くと、子どもを抱いた女性が、夫らしき男性や親戚たちと、片言の英語で「ここから先はとても危険だからバスに乗っていった方がいい」。その一団も、聖母像に行くためバスを待っているところだという。

　とりあえず一緒にバスで行くことにしたが、まだ何かされるのではないかとびくびくしていた。しかし、目的地に着いた後も「帰りは同じところで待っていれば、バスが来るから」。ただ親切な人たちだった。

　身の安全に気を付けるのはもちろんだが、せっかくの親切心まで疑ってしまった。「疑心、暗鬼を生ず」。聖母像に、そう言われたようだった。　（吉田通夫）