2023年04月05日

　間もなく日付が変わる金曜夜、ソウルの繁華街・梨泰院（イテウォン）を歩いていると、背後からの大きな音に驚いた。「ガラガラガラ！」。清掃員とおぼしき女性が大量の空き缶を車道にぶちまけていた。それだけでなく、空き缶をきれいな長方形に並べている。幅１メートル、長さ６メートルくらいか。「何が起きるんだ」。酔客たちがざわめきだした。

　ほどなくして「ブロロロ」とゴミ収集車が近づいてきた。まさか、本当に？　予感は当たった。収集車がガシャガシャと缶を踏みつぶしていく。並べられた缶の上を丁寧に２往復。あっという間にぺしゃんこになり、収集車はそのままどこかへ去っていった。缶を捨てるためにつぶしたかったようだ。

　つぶし残した缶を踏み始めた女性に、眺めていた酔客も加わった。計３人が缶の上で足踏みし、終わるとお互い「お疲れさま」と会釈。女性は大量の缶を袋に詰めてゴミ捨て場に置き、満足げに立ち去った。

　結果的に女性は、ほぼ労力を使わず缶の処理を終えた。効率的であれば形式にとらわれないのが韓国の良さ。見習いたくもあるが、それほど容易ではなさそうだ。（上野実輝彦）