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北アイルランド・ベルファスト おびえた日々越えて

2023年05月07日

 英領北アイルランドの中心都市ベルファストは、悲しい紛争の傷痕が残る街だ。「この街で、紛争で知り合いを亡くしていない人を探す方が難しい」。カトリックの父とプロテスタントの母の間に生まれたアナさん(23)が言った。両派住民の対立は英国の支配にあらがうテロと報復の武力紛争に発展し、3500人以上の犠牲者を出した。

 「この通りは、石を投げれば『元囚人』に当たる」。カトリック地区で、元過激派だった自治議会議員パットさん(64)が言った。25年前の和平合意で過激派は武装解除し、囚人は釈放された。彼もその一人だ。

 「夜に中心部のパブに行くなど考えられなかった」。テロで妻を失ったアランさん(58)が言った。紛争時は、入るパブを間違えれば命の危険さえあった。長い葛藤を経て和解の道を選んだアランさんは、取り戻した平和をかみしめる。

 分断はまだ残るが、殺りくにおびえた日々はもうない。取材の最後、アナさんに鶴を折って渡した。不器用ながら、平和への思いを伝えたかった。後日「机の上に飾っている」とメールがあった。街の融和と発展の未来を心から願う。(加藤美喜)