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米リビングストン 死刑囚 笑顔の意味は

2023年05月09日

4月、米テキサス州リビングストンにあるポランスキー刑務所の面会室=杉藤貴浩撮影

4月、米テキサス州リビングストンにあるポランスキー刑務所の面会室=杉藤貴浩撮影

 米南部テキサス州リビングストンにあるポランスキー刑務所を訪ねたのは先月のこと。ガラス窓で双方が仕切られたブースで、取材に同意してくれた死刑囚(67)との面談を終えると、別のブースにもう一人の死刑囚がいるのが見えた。

 執行を当日の朝に告げられる日本と違い、米国では通常1カ月以上前から死刑囚に処刑の予定日が告知される。所内を案内してくれた広報官が「彼の執行日はおよそ半月後だ」と教えてくれた。英BBC放送の取材が済み、迎えの所員を待っているところだという。

 その時、彼と視線が合った。浅黒い肌に彫りの深い目。ガラスの向こうで壁にもたれた姿はリラックスさえしているようで、片手を上げて笑顔を送ってきた。戸惑うこちらは、あいまいな笑みを浮かべて返すしかなかった。

 後で調べると、彼は2人を殺したとされる49歳。獄中でも一貫して無罪を主張し、予定の数日前になって新証拠の審査が認められ、処刑は保留となった。彼はあの時、どんな心境で死を迎えようとしていたのか。ガラス越しの笑顔が今も脳裏に焼きついている。 (杉藤貴浩)