2023年05月11日

　「今の子どもは現金を使ったことがない。お金の重みが分からなくなっている」。上海で事業を営む４０代の友人に「日本に一時帰国した時、久々に現金を触った」という話をすると、こんな言葉が返ってきた。

　中国にスマートフォンの決済サービスが登場してから１２年。デジタル経済が津々浦々に普及して久しい。彼の中学生になる長女は、物心付いた頃には生活の中に現金がない世代。「娘にとってお金とは、スマホ上に表示されるただの数字。買い物もスマホアプリでクリックすれば何でも家に届くものだと思い込んでいる」と苦笑した。

　友人と会ったのは、若者に人気の居酒屋。隣の席では派手な服装の女性たちがワインで乾杯している。決して安くないが、店内の活気に流されて私たちも次々と注文してしまった。

　紙幣や硬貨の手触りを感じない生活に慣れると、つい使いすぎてしまう。友人も「月に一度、スマホで使った金額を見てがくぜんとする。それを取り返すために毎日一生懸命働いているようなものだ」と悲哀を語りつつ、「これは中国経済にとっては良いこと」と前向きな言葉を絞り出していた。　（白山泉）