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米・ユタ州 おびやかされる先住民

2023年05月28日

 「これをかんでみなよ」。米西部ユタ州のホワイトメサ近郊の山中で、マイケル・バッドバックさん(55)が、生えていた草をちぎって手渡してきた。わずかな青臭さの後に、さわやかな香りが広がる。香草であるセージの一種だという。

 マイケルさんは、米国の先住民ネーティブアメリカンのユート族。ユタ州の語源にもなった部族の一員だ。「これも試して」と、野草を摘んでは食べさせてくる。一般的には薬草として使い、干してお茶にしたり、いぶして部屋に香りを漂わせたり。「靴に入れると、足の臭いも気にならない」

 薬草の知識は親から授かり、子どもたちに受け継ぐ。赤茶けた荒野で、時にウサギを狩るなどして暮らしてきたという。自然とともに生きる先住民の雄大な暮らしに触れた気がした。

 しかし、数十年前に付近にウラン鉱山が見つかって開発が進んでいる。生活がおびやかされたマイケルさんらは、開発への反対運動を展開する。もともと、米国の先住民は欧州からの移民に追い立てられた厳しい歴史がある。「不公平は、今回だけじゃない」。マイケルさんは寂しく笑った。(吉田通夫)