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北京 古き良き空間幕引き

2012年10月31日

 中国を代表する映画製作所の1つ、北京映画製作所が都市再開発のため取り壊しが始まった。「ラストエンペラー」や「覇王別姫」をはじめ1000作以上の映画撮影に使われた街並みのセットが有名で、観光ツアーも組まれていたほどだが中国紙によるとすでに観光ツアーは終了、取り壊しを待つばかりという。

 取り壊しを知って慌てて撮影所を訪ねると、撮影所の北側にあるセットはまだ残っていたものの、あるじを失った空き家のように寂しげにたたずんでいた。向かいではすでに造成工事が始まっており、工事現場の囲いには高層ビルやマンション群が立ち並んだ再開発後のイメージ図が掲げられていた。

 鍵のかかっていない門の隙間から中に潜り込むと、100年ほど前の北京を再現した街並みが目の前に広がった。ひと昔前なら北京の街中でも見られた石と木でできた古い家屋を眺めていると、カメラを手にした若い男性が「写真を撮ってくれませんか」と話し掛けてきた。聞くと彼も中国紙を見て駆けつけたという。「残念ですね」と男性はぽつりと言ってセットをゆっくりと見渡した。

 かつての北京を思い出させる貴重な空間が無くなるのは寂しいが、新しい撮影所でまた心に残る名画を生み出してほしい。そう自分を納得させて立ち去った。

(新貝憲弘)