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カイロ 色あせる自由と民主

2011年06月28日

 急進的なイスラム教徒がキリスト教の一派であるコプト教会を襲撃し12人が死亡したカイロ北西のインババ地区。道路の至る所に、生活ごみが積み上げられ悪臭を発している。いわゆるスラム街だ。殺気だった現場に着くと、東洋人の私に住民の視線が突き刺さる。子供からまで「出て行け」と追い出された。

 「きょうは日曜日なのに…。これじゃ、お祈りできない」-。黒く焼けただれた教会を見上げコプト教徒のハフマンさんは娘の腕にしがみつき涙をこらえた。

 コプトとイスラム教徒は身体の特徴は同じで、同じ場所に交じり合い暮らしている。「宗教は救いが本分。何のための宗教か」との思いがよぎる。

 数日後、カイロ中心部のタハリール広場に、金曜礼拝で数千、数万のイスラム教徒が集まった。その後の集会で、パレスチナ支援のシュプレヒコールに交じり、「ムスリムはコプトと手を結ぼう」との声も多かった。

 事件は“宗教対立”と、一言で片付けられない。あるエジプト人は、一部の急進的なイスラム原理主義者が対立をあおり利用している、と指摘する。就職難や貧困による不満のはけ口を求める若者が扇動され暴徒化する現状を変えなければ、自由と民主を求めた、せっかくの中東革命が色あせてしまう気がする。 (安藤淳)