2012年03月06日
ソウルの地下鉄は快適だ。1号線から9号線まで、主要路線名が数字で分かりやすい。乗換駅が近づくと車両内に音楽が流れ、乗り越すおそれも少ない。大声で通話する人にもほぼ出会わなくなった。
当地の人は「最近の若者は駄目だ」と嘆くが、年長者に席を譲る美徳は、日本と比べればずっと残っている。
先日、やや混んだ車内で立っていると、目の前の少年が立ち上がった。降りるのではなく、少し離れて立っている。まさか自分が席を譲られたのか! そういえば少年は立ち上がる前、ちらっとこちらを見ていた。
少年と比べれば記者は30歳ほど年長だろう。最近、韓国の友人に「目尻のしわを取る治療を受けたらどうか」と勧められた。「白髪を染めないのか」との質問もよく受ける。他人の目には「くたびれたオヤジ」に映ることは自覚していたが、席を譲られるほどとは思わなかった。
少年への感謝と自身への失望。混乱を整理できないまま、崩れるように席に座った。
以来、座席のある車両奥に行かず、入り口の近くに立つ。気のせいか、このあたりは同年代男性で混み合っているようだ。みな美徳の対象にならぬよう気を付けているのかもしれない。「お互い頑張ろう」。同志と決めつけ、心でエールを送っている。 (篠ケ瀬祐司)