2013年02月22日
昨年の師走の夕暮れに、横断歩道で信号待ちの車の運転手とふと目があった。
どこかで見たような顔だ。知人の息子に似ているような気がしてきた。
しかし、彼はミラノに住んでいるはずだ、と戸惑っていると、車を降りて声を掛けてきた。
「いゃ~、久しぶりだね」
薄暗がりのなか、半信半疑のこちらの手を取り握手に抱擁。
「何年ぶりかな。元気でやってるの?」
こちらは、「相変わらずだよ」と対応しながら名前が出てこない。
「せっかくの機会だから、何かプレゼントしたいな!服のサイズは48かい?ちょうどいいや。これあげるよ」
包装された背広上下を車から取り出し、押し付けてきた。
「何もお返しがないよ」
「いいから受け取ってよ」
予期せぬプレゼントを両手に、ぼうぜんとしていると、「ちょっと、ガス欠なんだ。小銭を切らしてさ。あるだけでいいから貸してよ?」。
一瞬にして目がさめた。まったく面識のない男だ。
服を返すと、青年は嘆息した。小銭を取れなかったからか、それとも、人違いにがっかりしたのか、いまでも判然としない。
(佐藤康夫)