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ニューヨーク 存続祈願はかなわず

2013年02月23日

 ニューヨークの真ん中に小さな神社がある。20階建てマンションの最上階。木の床のリビングに神棚を祭り、大願成就の鈴がつり下げられている。

 国連認証のNGOが2005年2月に開設し、正月三が日は毎年、約800人の初詣客でにぎわう。大みそかのカウントダウン後は特に混み、参拝の列が部屋のドアから廊下の先のエレベーターの前にまで続くという。

 おとそ気分で出掛けてみた。この時期は日本人の来訪者が多いとあって、マンションの警備員も手慣れたもの。「シントウ(神道)?」と聞かれて「Yes」と答えると、「オメデトウ」との日本語で迎えてくれた。神棚の部屋ではお守りやお札、ちとせあめを売っていた。米ドルのさい銭も少し妙でおもしろい。窓の外にセントラルパークが見えて、そこだけ切り取れば和洋折衷の風景だ。

 この神社が今月末で姿を消す。財政難など多くの理由が重なったという。4代目神主の中西正史さん(35)は「やはり寂しいです」。摩天楼の街から消える小さな「日本」を、多くの在留邦人や留学生が惜しんでいる。

 おみくじを引くと「吉」だった。そこそこの幸せで十分-というと日本人的な控えめさも感じるが、巨大都市の片隅にあったこの神社を考えれば、初詣の記念には十分ふさわしい。 (青柳知敏)