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ソウル 市場で心温まる接客

2013年10月18日

 日中の気温が連日30度を超え、熱帯夜が続いた今夏のソウル。それでも東京よりは湿り気が低く感じられ、日陰で風に吹かれれば結構しのぎやすかった。

 この乾いた暑さの中、小規模商店がひしめき合う伝統的市場、南大門市場にでかけた。砂糖漬けの朝鮮ニンジンを探すためだ。

 これを食べたら体調が良かったという義父に贈ろうと、気軽な気持ちで専門店に入ったのだが見あたらない。若い店員に聞くと「砂糖漬けはべたつきやすく管理が難しいから、最近は作っていない」と申し訳なさそうに説明してくれた。

 残念。思い付きの孝行はだめかなと苦笑いを浮かべていると、店員は「あのビルの2階にあるかもしれない」と、即座に同業者を紹介してくれた。自分の店にあるハチミツ漬けやエキスなどを売り込もうともせずに、だ。

 教えられた店にもなかったが、やはり店主は「隣ならあるかも」とライバル店に行くよう促すのだった。3軒目も「今は作っていない」という返事は同じ。さすがにあきらめて帰ろうとすると、社長は「作りましょう。いつまでにどれだけ必要ですか」と注文を受けてくれ、1週間後に立派な砂糖漬けが出来上がった。

 市場のぬくもりと温かみ。乾いた風に吹かれながら、心地よい湿り気を満喫した。 (篠ケ瀬祐司)