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バンコク 鑑識魂を伝え続ける

2017年07月14日

 タイの「裏」を知り尽くす人の話は驚きの連続だった。タイ国家警察の「警察大佐」の肩書を持つ戸島国雄さん(76)。バンコクに拠点を置く地銀の交流会に講師として招かれていた。

 警視庁時代に鑑識捜査官として、日航機の御巣鷹の尾根墜落事故やオウム真理教事件などに携わった戸島さん。タイにもたびたび派遣され、現場鑑識の指導に当たってきた。

 2004年のスマトラ島沖地震津波では遺体安置所で身元確認の陣頭指揮を執った。「遺体が次から次へと運ばれ、指紋採取が追いつかない。炎天下で腐敗も激しい。最後の手段として遺体の指の切断を決意した」

 指の皮を切り取り、自分の指に巻き付けて指紋を採取した。役割を分担し、作業が大幅にスピードアップした。遺体を傷つけるのはもちろん犯罪で、刑務所行きも覚悟した。「1人でも多く身元を判明させて家族に返したかった」と振り返る。

 軍関連病院の爆弾事件など、最近のバンコクは不穏な空気が漂う。邦人が邦人から金を詐取するといった事件も増えているという。「自分の身は自分で守れ」。戸島さんの言葉をかみしめている。 (山上隆之)