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バンコク 穏やかな国に潜む危険

2020年05月28日

 タイの首都バンコクの低所得層が暮らす一角に、その男(23)の家はあった。

 男は昨年12月下旬、バンコクの路上で、駐在員の日本人男性をナイフで刺して大けがを負わせ、現金を奪ったとして、仲間の少年(18)と逮捕された。

 男は平屋に義兄(41)の両親と住んでいた。義兄によると、男は両親を亡くし、学歴は小学校まで。パートタイマーで警備員をしていたが、ここ数カ月は、働いていなかったという。警察の調べでは、奪った現金で貴金属を買うなどしたとされる。

 タイで接する地元の人のほとんどは穏やか。そのため、日常的には危険を意識しづらい。だが、統計を見るとハッとする。

 タイの人口は日本の人口の5割強だが、凶悪犯罪の発生率は高い。未遂を含めた殺人事件は年間で3900件も起きており、日本の4倍以上になる。

 貧富の差も大きい。人口が800万人を超すバンコクで、20%の人がスラムで生活するといわれる。悪質で身勝手な今回の事件だが、タイの社会構造が抱える深刻な問題も胸に浮かんでくる。 (北川成史)