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カイロ デモも起きないとは

2020年11月16日

 「デモも起きないアラブ諸国に、怒りで鳥肌が立った」

 イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化合意を表明した翌日、テレビに映る両国の国旗をにらんで、カイロ支局の女性スタッフ(49)がつぶやいた。パレスチナに対するアラブの「冷たさ」に腹が立つのだという。アラブ諸国がイスラエルと国交を結ぶのは、26年ぶり。パレスチナの猛反発は当然だが、アラブ諸国では、大規模なデモなどはなかった。

 イスラエル占領下にあるパレスチナの和平実現は、アラブ諸国が共有する「大義」だった。パレスチナ国家の樹立なくしてイスラエルとの国交はないとして、和平に背く動きがあれば市民は街に出て声を上げた。「昔は日常だった」と彼女は言う。

 彼女から、活動家十数人がUAE国旗を踏むデモの写真を見せられた。驚くのは背後に写り込む数十人の撮影者。国旗を踏む姿をアップで捉え、大規模デモ風に見せた写真をツイッターに載せているという。

 街で実際に声を上げる人は消え、ツイッターでは「偽の怒り」が拡散する。「恥を知るべきだ」と憤る彼女の言葉に、妙に納得した。 (蜘手美鶴)