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カイロ ジャスミン香る首都

2021年04月16日

 シリアの首都ダマスカスは、ジャスミンの香りがするという。カイロ近郊にあるシリア人街で、シリア内戦から逃れて来たハシャム・メッカさん(24)が教えてくれた。この街は故郷に雰囲気は似ているけど、やっぱり匂いが違うんだ、と。

 カイロに来たのは2017年夏。11年から始まった内戦は激しくなる一方で、空爆で街は破壊され、自宅も崩れた。いとこ4人は戦闘で命を落とした。明日死ぬかもしれない恐怖の中で、毎日を生きていたという。

 13年夏、いつものように近くに爆弾が落ちた。辺りに漂うのは、かいだことのない下水のような臭い。そのうち息ができなくなり、意識を失って倒れた。その日、街に落とされたのは政府軍のサリンガス爆弾。ガスは重く、地をはうように流れ、地下室に隠れていた女性や子ども1500人が亡くなった。

 メッカさんに限らず、ダマスカスから来た人は、「すごくきれいな街だった」と振り返る。懐かしそうに話す人もいれば、つらそうに話す人も。ジャスミンの香りが漂うその街は、今はどんな姿をしているのだろう。思い描いてみるが、私にはうまく描けない。 (蜘手美鶴)