2021年06月21日
新型コロナウイルスワクチンの接種が進み、徐々に人出が戻ってきたニューヨークの中心街。冬の巨大クリスマスツリーで有名なロックフェラーセンターでも観光客の姿を見かけるようになってきた。
ただ、センター内のオフィスビルや地下街などの人影はまだまばら。そんな中、わずか数段の階段を一歩一歩バランスをとって上る初老の女性がいた。
「何か手伝いましょうか」と声をかけると、「ありがとう。でもいいの。練習しているだけだから」と女性。体を悪くし、リハビリとして人通りの少ない階段を利用しているのだという。確かに、荷物は手にせず階段の下に置いたままだ。女性は歩を進めながら、笑顔で言葉を続けた。「昔、このあたりで働いていたの」
華やかなニューヨークを闊歩(かっぽ)していたころの思い出が、リハビリの背中を押してくれるのだろう。コロナが収まり、街に人があふれるのは待ち遠しい。冬には見物客でひしめき合う名物のツリーも見たい。でも、この階段だけは、もうしばらく静かなままで…。女性の背中を見送りながら、ちょっとぜいたくな願いごとをした。 (杉藤貴浩)