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中国・貴陽 タクシーで聴く漢詩

2021年06月29日

 中国内陸部の深い山に囲まれた貴州省貴陽市。名産の白酒を飲んだ夜、タクシーに乗ると初老の運転手が次々と漢詩を吟じ始めた。「今のは改革開放を祝う詩。次は仕事の詩」。七言絶句で韻を踏んでおり、ほろ酔い加減に心地良い。聞くと全て自作なのだという。

 仕事を題材にした「送客」は「西の空が紅(あか)くなったころ、仕事に駆り立てるラッパが鳴る。街を走り続け客を送り届けたとき、明るい月を迎える」と歌う。「ミツバチが忙しく花粉から糖を作る。この甘いハチミツが人の食べるものだと、蜂は知るよしもない」と歌う「蜂」など、タクシー運転手の哀愁を漂わせる作品も多い。一方、「改革開放によって中国は強くなり、技術は世界にとどろくようになった」と祖国への誇りがテーマの作品など作風は幅広い。

 最近まで貧困地域を多く抱えていた貴州省。運転手の彼は「小学校もろくに行けなかったから学はないが、作詩だけは得意だった」という。詩は仕事詰めの単調な日々にあるささやかなたのしみ。ホテルに着くと「もう着いちゃったのか。もっと歌いたかったなぁ」と笑みを浮かべて走り去った。 (白山泉)