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ワシントン 生み出した国の葛藤

2021年09月09日

 対日戦争で日本の数多くの都市を焼き尽くした米軍のB29爆撃機。初めて見るそれは、想像していたより大きく、圧倒的だった。終戦記念日の8月15日、広島に原爆を落とした実物の「エノラ・ゲイ」が展示してあるワシントン郊外の国立航空宇宙博物館の別館ウドバー・ハジー・センターを訪れた。

 説明書きには「1945年8月6日、広島で初の原爆を投下した」などとあるだけ。推定14万人の犠牲者にも、「早期の戦争終結につながった」との主張にも触れていない。

 軍民含めたさまざまな航空機から宇宙ロケット、スペースシャトルまでいろいろな展示物がある中でも、巨大な「エノラ・ゲイ」は異様な存在感を放っていた。家族連れ中心の見学者たちのお目当てではないが、それでも多くの人が興味深そうに説明書きの前で足を止めていた。

 その場にいたアンドリューさん(61)は「核兵器はなくなってほしいが、あの当時、原爆の投下がなければ戦争は続いていた。核兵器について、自分の答えは分からない」と静かに、真剣に語った。核兵器を生み出し、使ってしまった米国。人々の葛藤はなお続く。 (金杉貴雄)