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ギリシャ・メテオラ 旅の解放感はお預け

2021年09月10日

 「マスクを余分に持っていたら譲ってくれませんか?」

 8月中旬、ギリシャ中部メテオラを旅すると、たびたび尋ねられた。最高600メートル超の奇岩群の頂に、修道院が点在する行楽地。新型コロナウイルス禍の影響で、修道院への入場はマスク着用が義務だった。ただ、休憩時にどこかに置き忘れたのか、マスクをなくしたために入場できない人がちらほらいた。

 ワクチン接種が進む欧州では渡航制限も緩和され、この夏は久々の海外旅行に出る人が多い。ロンドンに住む私も、渡航前や渡航先でのPCR検査などの手間はあったが、解放感のようなものを味わいたかった。

 ただ、メテオラには欧州各国から観光客が集まり、感染への恐怖心が頭をもたげた。35度ほどの気温の中、私も含めた大半は急な坂道や巨岩に設けられた階段でもマスクを着けたままで、息切れと大量の汗に苦しみつつ絶景を眺めて回った。

 道中、ある修道院を訪ねると、スタッフに「アリガトウ」と日本語で言われた。コロナ禍でめっきり減った日本人と会えてうれしかったという。彼の笑顔を見て、正常な旅が早く戻ることを願った。 (藤沢有哉)