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ソウル 「フレーム」巡る対立

2022年08月03日

 韓国人は「フレーム」という言葉をよく使う。物事を認識する枠組みのことで、例えば「職場で女性の悪口を言ったら『性差別だ』というフレームで攻撃された」などと使う。

 文在寅(ムンジェイン)前政権は、対立する保守勢力を親日派(民族の裏切り者)の子孫と見なす「親日フレーム」を多用した。敵・味方を基準に考える「陣営論理」がはびこり、社会の分断が深まったと言われる。

 そんな状況を念頭に、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は就任演説で「反知性主義」という言葉を使った。論旨はこうだ。

 異なる立場を調整し妥協するためには、科学と真実が前提になるべきなのに、行きすぎた対立によって真実が歪曲(わいきょく)されている。自分に都合の良い事実だけを選択し、多数の力で相手の意見を抑圧する反知性主義が、民主主義を危機に陥れている-。

 国会の多数を占める野党へのけん制とも取れる。だが、相手を「反知性」と見なすことが妥協につながるはずもなく、野党側は「尹氏こそ知性が足りない」と反発する。

 反知性主義という新たなフレームが増えただけで、分断は一向に解消しそうにない。 (木下大資)