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バンコク 「美しい街」公約に期待

2022年08月31日

 歩道に敷かれたブロックがグラリと揺らぐと、下にたまった雨水が勢いよく跳ね上がり、膝まで汚れる。まるで登山の「浮き石」のようだ。気を取り直して歩き始めると、今度は逆走したバイクが目の前に迫り、こちらが身をかわさねばならない。田舎ではなく、バンコク都心部では歩道でも気が抜けない。

 10年ほど前、当時の運輸相は高架鉄道や地下鉄、バスを好んで使い、道の隅々を歩いて交通問題の把握に努めたという。地味な印象で「最も知られていない大臣」と揶揄(やゆ)されたが、面が割れてないのを逆手にとり、現場主義を職員も見習ったとか。

 先のバンコク都知事選で、そのチャチャート氏が当選した。「美しく、皆が一緒に歩ける、住み心地の良い大都市に」。ごく当たり前のような、しかし、誰もが抱いている思いを端的に言い表したような公約だった。

 運輸相の仕事は、クーデターで任期半ばに頓挫。当時の政権を倒した軍は現政権に通じる上、タイは77都県のうち公選はバンコクだけと地方自治に乏しい。その行動力で、米コミックヒーロー「ハルク」とあだなされる新知事の奮闘に視線が注がれている。 (岩崎健太朗)