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バンコク 手軽さと煩雑さと…

2022年09月02日

 先日、バンコクのオフィスに程近い政府機関に出掛ける際に、助手が書類の束を差し出してきた。「こことここ、ここにサインを」。滞在許可の延長や社会保険料の手続きの際、パスポートなど身分証明の原本も提出するのだが、さらにそのコピーや、申請書類の10カ所以上に自筆の署名を求められる。「こんなに必要なの?」「決まりだから仕方がない」。毎度繰り返されるやりとりだ。

 半面、日本以上に電子取引が浸透していると感じることも多い。キャッシュカードがなくても、スマホの操作でATMから預金を引き出せる。レストランだけでなく、道端の屋台でもQRコードでの決済が可能だ。特に銀行で手続きした覚えはなく、手数料も不要。この手軽さと煩雑さの落差を常に感じる。

 「何か問題が起きたとき、署名があれば責任の所在がはっきりする」とタイ人の知人。ミスが発覚したり、書類の偽造を見抜けなかったりしても、担当者は責任を免れるとか。一番の理由は別にあるという。「煩雑さによって、面倒な書類が申請されるのを減らそうとしているのさ」。真偽はわからないが、さもありなんか。 (岩崎健太朗)