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英トトネス 自己流でゲイシャ道

2022年10月06日

 「ハチコです。初めまして」。英南部デボン州の田園豊かな町トトネスを訪れた。目的は日英の文化の架け橋であるご夫婦の取材だったが、取材の合間に着物姿の英国人女性から話しかけられた。差し出された細長い紙には、ピンクのハスの花の絵と「蓮小」の字。京都の舞妓(まいこ)さんの花名刺と同じだ。

 髪を一つにまとめ、茶色の着物を上手に着こなす彼女の足元は黒いスニーカー。手に持っていた本は世阿弥の「風姿花伝」の英語訳。花名刺の裏には「トトネスゲイシャ」とあった。

 聞くと、日本に行ったことはなく、着付けは「ユーチューブで習った」。でも、三味線や舞踊、小唄も自分で勉強するほどの本格派。英BBC放送に取り上げられたこともある。

 交流サイトなどで「『本物と違う』とよく批判されるの」と苦笑したが、着物の布の切れ端でつまみ細工を作るようになってから、てんかんの発作が治まったとも話してくれた。

 アンバランスな第一印象も、日本文化への愛を聞くうちに徐々に感動に変わった。「あなたの努力と熱意は、間違いなく本物だと思う」。蓮小さんの笑顔が、はち切れた。 (加藤美喜)