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仏グルノーブル ブルキニ 誰のため?

2022年12月16日

 「それは無理です」。イスラム教徒の女性用の水着ブルキニを巡り、フランス南東部グルノーブルで起きた論争を取材したときのこと。記事に添えるため商品の写真撮影を複数のブルキニ取扱店で依頼したが、ことごとく断られた。いずれも、判断したのは店頭の女性店員ではなく奥にいる男性店主だ。

 ある店の女性店員はこう言っていた。「どんな水着も人前で着るのはイスラム教徒として好ましくない」。女性が人前で運動をすることに否定的な、厳格なイスラム主義の考え方に影響を受けているようだった。

 ブルキニはこうした考え方から女性を解放するため、イスラムの戒律に沿うデザインとして開発された水着だ。それにもかかわらず仏国内では「ブルキニはイスラム主義の象徴」という本来の意図とは真逆のイメージが定着してしまっている。

 イスラム主義の浸透を嫌う右派政治家らが流布させてきたイメージで、ブルキニを擁護する人は「イスラム化した左派」とのレッテルを貼られるという。「だが、そのことで女性の解放が妨げられているのであれば本末転倒だ」。取材した専門家の言葉にうなずいた。 (谷悠己)