【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 韓国
  5. 米スペンサー 死刑を見つめる意味

米スペンサー 死刑を見つめる意味

2023年04月01日

 森を車で進むと、小さな湖を望むログハウスが見えてきた。米中西部インディアナ州スペンサーにあるビル・ブリーデンさん(73)宅。ビルさんと妻グレンダさん、片方の瞳が青い愛犬「ブルーアイ」が迎えてくれた。

 夫妻とともにした昼食の七面鳥のスープが、中西部の寒さから体を温めてくれる。「後でレシピを教えてあげる」とグレンダさん。ビルさんは「夏にはそこの湖で泳げるから、家族で来てくれ」と言ってくれた。

 ただ、この日の目的は米国の死刑制度に関するインタビュー。宗教家のビルさんは死刑執行に立ち会った経験があり、昼食後、その一部始終を語ってくれた。処刑室の乾いた空気、執行開始を告げたマイク、死刑囚の最期の言葉…。「あれ以来、かごから外へ出ようと飛び回る鳥の夢を見るようになったよ」

 そう涙声で話すビルさんを心配するように、食卓の下からブルーアイが、鼻で膝を押してきた。「もうこんな話を続けさせないであげて」と言わんばかりに。「ごめん。でも、人が人の命を奪うという意味を、僕たち人間は考え続けないといけないんだ」。その青い目に、心の中でそう返した。 (杉藤貴浩)