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ソウル パラサイトの舞台で

2023年06月28日

 半地下住宅に住む青年が近所の小さなスーパーの店先で、友人と焼酎を飲む−。韓国の格差社会を描いた映画「パラサイト 半地下の家族」の撮影地になった店が、ソウル市内にある。

 2020年春に当地に赴任後、取材したことがあった。3年の任期を終えて帰国前に、再訪した。食料品や雑貨が所狭しと並ぶ店は閑散としている。「若者はコンビニを好む。うちみたいな店に来ない」。店主の李廷植(イジョンシク)さん(82)が物憂げに、レジ前のテレビを見る。

 世界で最も深刻とされる少子化問題が話題になり、李さんは若いころを振り返った。韓国が世界最貧国の一つだった1950年代、南東部の農村部の小学校を卒業後、ソウルに出てきた。半地下よりも暗い地下室に住み、市場の荷役の仕事でお金をためた。20代で店を持ち、結婚して1男1女を育て上げた。

 私はこの間、就職や住宅購入で悩む若者を多く見てきたが、李さんの言葉も記憶に残りそうだ。「韓国は急いで経済成長して、皆が良い職業、マンションや車がないと結婚や出産ができないと考え過ぎるようになった。少しゆっくり暮らせる社会に変わるべき時だ」 (相坂穣)