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五稜郭

五稜郭 北海道函館市 激動の時代映す星形

タワーから見下ろした五稜郭。観光客のほか、ジョギングの市民らにも親しまれている。手前右が半月堡

タワーから見下ろした五稜郭。観光客のほか、ジョギングの市民らにも親しまれている。手前右が半月堡

 高さ107メートルのタワーに上ると、日本の城としては一風変わった星形五角形があらわになる。江戸と明治。旧時代と新時代のはざまで揺れた五稜郭(北海道函館市)は、その鋭い輪郭が異国の脅威に神経をとがらせた往時の空気を漂わせる。

 「ヨーロッパの要塞(ようさい)都市をモデルに設計されました」。ガイド歴1年という白川志保さん(25)の説明は滑らかだ。米国のペリー艦隊の来航を受け、江戸幕府は1854(安政元)年、鎖国政策を転換し日米和親条約を締結。下田と箱館(函館)の2港を開いた。諸外国との接触の最前線で、57年に築造が始まった。

 タワーから見て手前の三角形は、「半月堡(ほ)」と呼ばれる土塁。5カ所に建設される予定だったが、工期と予算の都合で港に向けた正面にだけ設けられた。「当初の設計通りに完成していたら五稜郭とは呼ばれていなかったでしょう」と白川さん。なるほど、設計通りなら星形を2つ重ねたようになり、五角形には見えなかったに違いない。

 函館は明治維新の戊辰戦争を終結させた「箱館戦争」の舞台となった。新選組副長だった土方歳三(1835~69年)や、後に明治政府で大臣となり不平等条約の解消に取り組んだ榎本武揚(1836~1908年)らの旧幕府軍が五稜郭を拠点に新政府軍と戦い、敗れた。

 「身長が160センチ台後半で当時の平均を大きく上回っており、ロングブーツ、ロングコートがよく似合ったそうです」。土方を語る白川さんは、どこか誇らしげだ。市内にある「土方歳三最期の地」の石碑には、住民が日々交換する花が手向けられており、敗軍の将を厚く弔う市民の優しさが垣間見える。

函館山からの夜景。展望台は観光客でにぎわう

函館山からの夜景。展望台は観光客でにぎわう

 タワーを下り、五稜郭の中心で2010年に再建された箱館奉行所に入る。新政府の軍艦の砲撃は、港から3.5キロ離れた五稜郭にまで届き、奉行所を直撃したという。1871(明治4)年に解体され、わずか7年で役割を終えており、五稜郭はその後、公園として市民らに親しまれるようになった。

 「子どものころは『イカー、イカー』とリヤカーを引いたおばあさんが町を歩いてました。親に渡された500円玉を握って買いに行ったら、それが朝ご飯。今思うとぜいたくですね。当時はホッケなんて捨てるほどあったんですが」

 函館の食を熱く語るタクシー運転手、井田良さん(42)のすすめで、夜は海鮮料理の居酒屋へ。昔ほどはとれないようで、「時価」の活(かつ)イカ刺しは2000円弱。歯応えと口に広がる甘み、函館山(標高334メートル)にロープウエーで上って観賞した夜景の残像で酒がすすむ。

大森浜の啄木小公園にある石川啄木の像。奥の立待岬の近くには啄木一族の墓がある=いずれも北海道函館市で

大森浜の啄木小公園にある石川啄木の像。奥の立待岬の近くには啄木一族の墓がある=いずれも北海道函館市で

 箱館戦争から40年近くが過ぎた1907(明治40)年、歌人の石川啄木(1886~1912年)が故郷の岩手を離れ函館に移住している。わずか130日余りの滞在となったが、「函館で死にたい」と言い残すほど愛着を持っていたという。啄木がよく散歩した大森浜を見下ろす立待岬の近くに啄木一族の墓がある。

 東海の 小島の磯の 白砂に われ泣きぬれて 蟹(かに)とたはむる

 墓に刻まれた短歌を反すうしながら浜辺を歩く。函館の空気に触れ、啄木は新時代の表現を切り開いた。激動の当時と異なり、穏やかに時代が移ろう現代。津軽海峡をわたる冷たい風が二日酔いの体を心地良く包み、すがすがしい気分になった。

  文・写真 立石智保

(2019年5月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
函館空港へは、直行便で中部国際空港から1時間半、羽田空港から1時間20分。
函館空港から函館駅前は、シャトルバスで20分ほど。
2016年に開業した北海道新幹線を使う場合は、東京から約4時間半。

◆問い合わせ
函館国際観光コンベンション協会=電0138(27)3535

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★市電
函館市中心部の移動は路面電車の市電が便利。
信号待ちをしながらレトロな街並みをのんびり眺めていると、旅情が高まる。
料金は距離に応じて210~250円。
「manaca(マナカ)」などの交通系ICカードが使えるので安心。
600円の1日乗車券もある。

★湯の川温泉
函館空港から車で5分、函館駅から市電で30分と、利便性が抜群で、函館観光の拠点に最適。
北海道の三大温泉郷の一つで、発祥は江戸時代とされる。
箱館戦争では榎本武揚が傷病兵を湯治させたという。
市電の停留場「湯の川温泉」の近くに足湯がある。

★ラッキーピエロ
函館市内で17店舗を展開するご当地ハンバーガー店。
一番人気は「チャイチキ」の愛称で親しまれるチャイニーズチキンバーガー(税抜き350円)。
甘辛い鶏の唐揚げとレタスを挟んだ中華風の個性的な味わいだ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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