故郷の愛媛県を再発見しようと旅に出た。長年、東京で仕事をしてきたため、地元の観光とは無縁だった。愛媛県は3つの地域に大別され、東から東予(新居浜市や西条市など)、中予(松山市や伊予市など)、南予(大洲市、西予市、宇和島市など)と呼ばれる。今回は、昨年7月の西日本豪雨から1年を前に、がんばる南予地域を選んだ。
最初の目的地は西予市の宇和米博物館。1928(昭和3)年建築の小学校の校舎をそのまま利用したコメの博物館で、当時の109メートルの柱一つない廊下は圧巻。実に珍しい光景だ。かつて、木造校舎で学んだ小学生のころを思い出し、長く広い空間に心癒やされた。
ここで地元の名物、109メートルの雑巾がけレースを体験した。上履きとひざサポーターを貸与されてスタート。やる気満々で雑巾を押し出したが、10メートルほどでダウン。前のめりで横転の連続だった。息絶え絶えにゴール。周りから拍手で迎えられたのは照れくさかった。記録は2分35秒と最悪。男性の平均タイムは小学校高学年で1分1秒、20代で45秒、40代で1分13秒、60代で1分42秒。歴代最速タイムは18秒17という。全国から挑戦してほしいと思った。
周辺には、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された宇和町卯之町の町並みが残る。特に四国で最も古い小学校校舎「開明学校」は国の重要文化財に指定された。
宇和島市に入り、青く壮大な宇和海と急斜面を切り開いて造られたミカンの段々畑は絶景だった。吉田町玉津地区の被災した若手ミカン農家が創設した「玉津柑橘俱楽部(かんきつくらぶ)」の案内で、被災したミカン畑を訪れた。園地の約2割に深刻な被害が発生し、元の姿を取り戻すためにはまだまだ時間がかかるという。案内してくれた原田亮司さんは「今後もミカンボランティアやアルバイトに入ってもらいたい」と話していた。同俱楽部が販売する復興みかんジュースを飲んだ。スッキリした甘みで実においしかった。
愛媛県は養殖マダイの生産量が日本一。新鮮な宇和海の幸を味わえる「ハイウェイレストラン宇和島」で郷土料理「宇和島風鯛(たい)めし」を注文した。宇和島市など南予は、タイの刺し身を生卵入りの冷ましただし汁とともに、温かいご飯にかけて食べる。私の故郷、松山市では焼いたタイを昆布だしで炊き込んで食べる。どちらがおいしいだろうか。今回、数年ぶりに食べる宇和島風も実に大満足だった。
旅の最後は大洲市の肱(ひじ)川で鵜飼いを楽しんだ。夕方、屋形船に乗り、川下りを楽しみながら船内で川魚などの料理を味わった。午後8時前、かがり火をたいた鵜舟が現れ、鵜匠の山中惇耶さんが巧みな手綱さばきで、5羽の鵜を操り、アユを捕らえた。水面に映る明かりの彩りが印象的。ライトアップされた大洲城にも感動し、約2時間の水上ショーを満喫した。
「大洲のうかい」は、岐阜市の長良川と大分県日田市の三隈川とともに日本3大鵜飼いの一つ。大洲はかがり火をたいた鵜舟と2そうの屋形船が並走しながら川を下る「合わせ鵜飼い」という手法で行われるため、鵜との距離が近く、迫力がある。
昨年の鵜飼いの観覧客数は西日本豪雨災害の影響で57(昭和32)年の開始以来、最低の2069人。同市観光協会によると、今年は被災前の約6000人が目標という。多くの人に、がんばる南予地域に来てもらいたいと思った。
文・写真 堀内洋助
(2019年6月21日 夕刊)
メモ
◆交通
名古屋(中部国際空港)から松山空港へ定期便がある。同空港からバスでJR松山駅へ。
または新幹線・岡山駅で在来線特急に乗り換えて松山駅へ。
同駅から特急で伊予大洲駅(大洲市)まで約40分、卯之町駅(西予市)まで約1時間、宇和島駅(宇和島市)まで約1時間半。
◆問い合わせ
愛媛県観光物産課=電089(912)2490
おすすめ
★名水百選「観音水」でそうめん流し
鍾乳洞から湧き出る名水で地元の老人クラブが運営。
営業時間は午前10時~午後5時。9月10日まで。
期間中無休。
料金中学生以上600円。
小学生300円など。
西予市宇和町明間。
名水亭=電0894(67)0013。
★大洲市交流促進センター鹿野川荘
西日本豪雨で被災したが、昨年秋に露天風呂を完成させてリニューアルオープン。
pH10の滑らかなアルカリ性の天然温泉。
お肌がしっとりの美人の湯。
日帰り入浴も可。
入浴料大人540円。
電0893(34)2000
★大洲のうかい
一般乗合船は船上食付きで中学生以上6000~8500円、子ども(3歳以上)4500円。
宿泊セットは大人1万3000円、子ども1万500円。
9月20日まで毎日運航。
午後6時~8時40分。
完全予約制で希望日の前日午後5時締め切り。
大洲観光総合案内所(大洲まちの駅「あさもや」内)=電0893(57)6655