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岡城跡

岡城跡 大分県竹田市 そびえ立つ迫力の石垣

岡城跡には柵などがなく、高さ数十メートルの絶壁にも容易に近づける

岡城跡には柵などがなく、高さ数十メートルの絶壁にも容易に近づける

 ものすごい量の石積みが岩山の尾根から立ち上がり、青い空の端をジグザグに切り取っている。大分県竹田(たけた)市の山中にそびえる岡城跡の石垣は「天空の城」の異名にふさわしい威容だ。火山の恵みのおかげで生まれ、滝廉太郎が「荒城の月」を作曲するヒントになったとされる名城を訪ねた。

 「明治時代に建物が全部壊されちゃった。石垣以外に何もない」。ボランティアガイドの衛藤頼光さん(75)がお約束の謙遜をつぶやき、城下町より100メートル高い城を目指して登っていく。いやいや、記者のようなお城ファンにとって、難儀な工事を担った往時の人の汗が染み込んだ石垣こそ、真の見どころだ。廉太郎が子どものころ、歌詞にあるような「むかしの光」を見た、さびた風情を感じるなら、下手に復元した建物などない方がいい気もする。

 江戸時代、豊後岡七万石の藩主は中川家が務めた。羽柴秀吉と柴田勝家が争った賤ケ岳の合戦に秀吉側の武将として参加、戦死した中川清秀の次男・秀成(ひでしげ)が1594年にこの地を拝領。4000人の家臣と職人を連れてお国入りし、元々あった中世の山城を最先端の石垣造りに改修した。材料は「竹田にはほぼ無限にある」(衛藤さん)という阿蘇溶結凝灰岩。城の西25キロにある阿蘇山の火砕流が冷えて固まった岩で、規則的な「柱状節理」の割れ目が入り、加工が極めて簡単だった。

千田嘉博さんが「超ド級戦艦」に例えた迫力の石垣群=いずれも大分県竹田市で

千田嘉博さんが「超ド級戦艦」に例えた迫力の石垣群=いずれも大分県竹田市で

 石段と坂道をたどり、城の中枢に出た。たまたま同じ日に登った城郭考古学者で奈良大教授の千田嘉博さん(56)が、長々と続く灰色の石垣の迫力に「まるで超ド級戦艦」とうなる。実際は端から端まで約900メートルもあり、戦艦大和(263メートル)の3倍を優に超えている。観光地化した城にありがちな過保護な柵、立ち入り禁止の場所は一切ない。こけむした石垣の端まで歩き、絶壁ものぞき込んだ。

 岡城では、太平の世の山城としては異例の推定800人が暮らした。他藩では、大名も家来衆も交通が便利なふもとの屋敷に住み、山の上にはせいぜい留守番を置くだけだった。中川の殿様は、なぜかそうしていない。

 
二の丸に立つ滝廉太郎像

二の丸に立つ滝廉太郎像

 よほど居心地が良かったのかなあ…。一帯で一番深い「地獄谷」の真上にある二の丸にたたずみ、想像を巡らせた。高等小学校時代、ここに通って遊んだ廉太郎の銅像がこちらを見ている。カメラを向ければ、はるかにかすむ九重(くじゅう)連山が後景になる絶妙な配置だ。絶景を眺め、山暮らしの魅力の一端を知った気になった。

友永修治さん(左)がさばいてくれた頭料理。魚の部位を知り尽くし、調理できる料理人は竹田に5人ほどしかいないという

友永修治さん(左)がさばいてくれた頭料理。魚の部位を知り尽くし、調理できる料理人は竹田に5人ほどしかいないという

 廉太郎がよく使ったらしい「七曲(まが)り」の急坂で城下町に下りる。和食「友修(ともしゅう)」ののれんをくぐると、大将の友永修治さん(59)が豊後水道でとれる白身魚ニベで作った伝統の「頭料理」を出してくれた。

 浮袋、のど、肝臓、胃袋、ハラミ、クチビル、真子(まこ)(卵)、マツゲ(エラ)、皮、正味(肉)。絶妙な加減でゆでた10種もの部位が並ぶ大皿に、地元産のカボスをしぼる。三杯酢にちょっとつけていただき、1種ずつ食感が異なる名物を味わった。

 「要するに、魚のホルモン。うろこと骨だけ捨てて、内臓も頭も全部大事に食べるんです」。最寄りの港まで15里(60キロ)ある竹田では古来、海の魚が珍重された。届いたその日に急いでさばき、近所の家々に「今日あるよ」と声を掛けて大勢で食べるのが習わしだという。

 山里に息づく知恵と人情を胸に刻み、ほろ酔いで単線の豊肥線に乗り込む。豊後竹田駅のホームに響くメロディーは、やっぱり「荒城の月」だった。

 文・写真 中野祐紀

(2020年4月3日 夕刊)

メモ

◆交通
中部国際、羽田空港から大分空港へは定期便がある。
大分空港からJR大分駅までは、バスで1時間5分。同駅から豊後竹田駅まで豊肥線で1時間15分。
駅から岡城跡は徒歩30分。

◆問い合わせ
竹田市観光ツーリズム協会=電0974(63)0585

おすすめ

銘菓「荒城の月」

銘菓「荒城の月」

★銘菓「荒城の月」
地元で「楽聖」と尊敬される滝廉太郎の名曲にちなんだ和菓子。
砂糖、白豆と卵黄などで作った黄身あんを、卵白と寒天などの「淡雪かん」で包み、上品な味わい。
城下町の川口自由堂、但馬屋老舗で。

★キリシタン洞窟礼拝堂
武家屋敷が並ぶ通りの裏手、岡藩の家老邸の一角だった崖に残る謎に満ちた遺跡。
岩肌を削って造ったドーム形の洞窟内に祭壇の跡がある。
徳川幕府の命令で禁じられていたキリスト教信仰の記録こそ残っていないが、藩が保護していた証拠との説もある。

原尻の滝

原尻の滝

★特急あそぼーい!
JR九州が別府-阿蘇間で週末を中心に運行し、大分、豊後竹田にも停車。子ども専用の窓側席や絵本コーナー、木のボールに埋まって遊べる「木のボールプール」など親子連れにうれしい仕掛けが満載。

★原尻の滝
豊後大野市にある幅120メートル、落差20メートルの「東洋のナイアガラ」。
これも阿蘇山の火砕流と柱状節理の産物。
岡城跡からタクシーで15分程度。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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