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道後温泉と「坊っちゃん列車」

道後温泉と「坊っちゃん列車」 松山市 心ほどける懐かしさ

カラフルなお結び玉がいっぱいに結ばれた円満寺の飾り

カラフルなお結び玉がいっぱいに結ばれた円満寺の飾り

 スタジオジブリ映画「千と千尋の神隠し」に出てくる、神々が集う湯屋。そのモデルの一つとされる建物が、松山市の道後温泉郷にある。1894(明治27)年に竣工(しゅんこう)した道後温泉本館だ。重要文化財に指定されてもなお、市営の公衆浴場として人々に親しまれている。ふと、本館近くの小道に入っていく人の流れに気付く。若いカップルや女子グループが多いようだ。何があるのだろう。

 小道を進むと、蔵のような建物に人だかりを見つけた。カラフルなお手玉のようなものがたくさんぶら下がっていて、訪れた人たちがしきりに写真を撮っている。なるほど、これは「インスタ映え」しそうだ。

 ここは浄土宗大悲山円満寺の一角にある地蔵堂。高さ3.67メートルの「湯の大地蔵尊」が祭られている。宮川真弓(しんきゅう)住職(86)によると、奈良・東大寺の大仏建立に尽力した奈良時代の高僧、行基の作。江戸時代に大地震でこの地域の温泉が止まった時、地蔵尊に祈願することで湧出が復活したのだとか。

 皆がこぞって撮影していたのは「お結び玉」。ちりめん製の玉に願いを込め、飾りに結ぶとかなうという。5年ほど前、地元商店主らでつくる団体が街おこしの一環で設けたところ、縁結びの御利益があると人気に。宮川住職は「お参りの人がすごく増えた。しーんとしたお寺よりずっといい」と笑った。

市街を走る坊っちゃん列車。オレンジ色の路面電車とすれ違う

市街を走る坊っちゃん列車。オレンジ色の路面電車とすれ違う

 松山市中心部は路面電車王国だ。伊予鉄道の市内電車5路線が運行し、平日の日中でも5分と空けずに電車が来る。愛媛特産のミカンを思わせる鮮やかなオレンジ色の電車が往来する中、目を引くのがSL型の「坊っちゃん列車」だ。明治21年に走り始め、夏目漱石の小説「坊っちゃん」にも登場する伊予鉄道の機関車を模したディーゼル車で、土日祝日に1日8便運行している。道後温泉郷の玄関口、道後温泉駅から乗り込んだ。

 漱石が「マッチ箱のような汽車」と書いたのも納得。こぢんまりした客車に乗り込むには、ドア枠に頭をぶつけないよう身をかがめないといけなかった。座面まで木製のレトロないすに腰掛けると、当時を再現した、学ランのような制服姿の若い車掌が「明治時代にタイムスリップした気分を味わってください」と声をかけてくれた。

 列車は終点の古町(こまち)駅へ向けてガタゴトと走り始める。4.9キロ、およそ30分の旅だ。いすを通して車体の振動がダイレクトに体に響くのが心地いい。

 繁華街や松山城を眺めていると、車掌がひもを引っ張っていた。「ポイントを切り替えているんです」。通常の電車は、パンタグラフが架線の検知器に触れると自動的にポイントが切り替わるが、パンタグラフのない坊っちゃん列車は、要所ではしご状のさおを上げ、検知器をたたく必要がある手動式だ。

ミカンを使ったケーキなどを紹介する矢野智規さん=いずれも松山市で

ミカンを使ったケーキなどを紹介する矢野智規さん=いずれも松山市で

 松山に来たらぜひ訪れていただきたいのが、JR松山駅近くの洋菓子店「ラ・ブランシュ」。スイーツ好きの私が2年前に訪れ、「地方都市にこんな店があったとは」と感動した店だ。

 東京・代官山の有名店で修業した宮崎俊一郎さん(54)がオーナーシェフを務める人気店。季節限定品を含め常時四十数種をそろえるケーキは、どれもシンプルながら丁寧に作り込まれていて飽きがこない。「子どもからお年寄りまで親しんでもらえるお店にしています」と店長の矢野智規さん(39)は胸を張る。

 きれいなものを見て、昔の情緒を感じて、おいしいものも食べた。さあ、温泉に戻ろう。どこか懐かしい雰囲気がある道後温泉郷。日常を離れた最高の癒やしがここにはある。

 文・写真 小原健太

(2020年4月10日 夕刊)

メモ

◆交通
中部国際空港から松山空港までの直行便が1日3本出ている。
空港から道後温泉まではリムジンバスで40分。
市内の移動は伊予鉄道の市内電車が便利で、1日乗り放題券(700円)などもある。

◆問い合わせ
松山観光コンベンション協会=電089(935)7511

おすすめ

内子(うちこ)町

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★内子(うちこ)町
江戸時代後半から木ろうの生産地として栄え、現在は重要伝統的建造物群保存地区に指定されている「内子の町並み」がある。
大正時代に建てられた芝居小屋「内子座」は花道や奈落に立つことができ、歌舞伎ファンにお勧め。
伝統芸能の上演もある。
松山市内からJRの特急で25分。

★松山城
松山市街の標高132メートルの勝山山頂に本丸がある。
別名金亀城。
天守は江戸時代以前に建造された「現存12天守」に数えられる。
山頂付近に通じるロープウエーやリフトがあり、市街地を一望できる。

松山鮓(ずし)

松山鮓(ずし)

★松山鮓(ずし)
古くから慶事などで振る舞われたちらしずし。
トラハゼなど瀬戸の小魚でだしを取った甘めの合わせ酢で、すし飯を作る。

★タルト
松山名物。
一般的なクッキー生地のケーキではなく、ゆずあんがまかれたロールケーキ。
江戸時代初期、松山藩主が長崎からレシピを持ち帰ったとされる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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