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1day遍路

1day遍路 香川県善通寺市 平穏な日常よ 戻って

出釈迦寺で購入したお遍路さん用品。これに、自宅から持参した数珠を加え、5つの寺を回った

出釈迦寺で購入したお遍路さん用品。これに、自宅から持参した数珠を加え、5つの寺を回った

 遠くに山々を望むのどかな田園地帯を、長い杖(つえ)を突きながらゆっくり歩く。背中には「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」の文字。格好だけは一人前かもしれない。香川県善通寺(ぜんつうじ)市。弘法大師空海ゆかりの霊場、四国八十八カ所を巡る「お遍路さん」になり、歩く田舎道は少し気恥ずかしい。

 お遍路さんをやってみようと思ったのは、香川県の情報誌をめくっていたときだ。「春を歩く、1day遍路。」という特集があり、1日なら初心者でも無理なくできそうだと思ったからだ。善通寺市のコースは、八十八カ所のうち、七十二番から七十六番まで5つの寺を巡る。加えて、この地で生まれ育った空海ゆかりの場所があるというので、訪れることにした。

 空海の幼名は真魚(まお)という。7歳のとき、我拝師山(がはいしさん)に登って「将来、仏の教えを広めて多くの人を救いたい。私の願いがかなうなら姿を現してほしい。かなわぬのなら命をささげる」と釈迦(しゃか)如来に呼びかけて断崖から飛んだところ、釈迦如来と天女が現れ、抱きとめられたという伝説がある。その断崖の近くには現在、七十三番出釈迦寺(しゅっしゃかじ)の奥の院「捨身ケ嶽禅定(しゃしんがたけぜんじょう)」がある。

捨身ケ嶽禅定を目指し、急坂を登る途中で見られた景色。善通寺市街や瀬戸内海が一望できる

捨身ケ嶽禅定を目指し、急坂を登る途中で見られた景色。善通寺市街や瀬戸内海が一望できる

 我拝師山の麓にある出釈迦寺を出発点に、禅定を目指して山道を登ってみた。かなりの急坂だ。30~40分かかるらしいが、5分で息が上がる。さすがはタクシーも「車が壊れる」と登らない道だ。ぜいぜい言いながら歩き続けると、禅定が見えてきた。振り返ると善通寺市の街並みや瀬戸内海が見えて気持ちがいい。絶景だ。

 禅定まで30分ちょっとで着いた。しかし、先がある。捨身の地だ。100メートルほどだというが、もはや道ではない。岩の崖だ。設置された鎖につかまってはい上がる。落ちたら死ぬんじゃないかという気もする。弘法大師ならぬわが身は助かるまい。

 目が覚めると、ベッドの上だった。昨日は歩きすぎて疲れ、夕食に少しビールを飲んだだけで、ホテルの部屋ですぐに眠ってしまったようだ。身支度を整え、愛飲するユンケルを飲んだら、一路、歩きお遍路へ。

 順番通り、七十二番曼荼羅寺(まんだらじ)から始める。お遍路さんの作法は昨日までに、ガイドブックなどで頭に入れ、般若心経などのお経も、ネットの動画投稿サイトを何度も聞いて、ある程度覚えた。さらに、昨日訪れた出釈迦寺で金剛杖や白衣(びゃくえ)を買ったほか、先輩お遍路さんがお参りする様子を見て手順を覚えた。さあ、いよいよ実践だ。

四国八十八カ所の七十五番善通寺で読経するお遍路さんら。声をそろえ、迫力を感じさせる=いずれも香川県善通寺市で

四国八十八カ所の七十五番善通寺で読経するお遍路さんら。声をそろえ、迫力を感じさせる=いずれも香川県善通寺市で

 手水(ちょうず)場で手を清めた後、本堂へ。ろうそくに灯をともして立て、願い事を書いた納札(おさめふだ)を奉納し、おさい銭を入れる。願い事は「コロナ終息」。このときはまだ政府の緊急事態宣言の発令前だったが、1日も早く新型コロナウイルスの感染拡大が終息するよう願い、頭を下げた。

 続いて読経。経本を開きながら、口に出してお経を唱える。少し照れくさいが、幸い周囲に人がおらず、誰にも聞かれずに唱え終えた。弘法大師をまつる大師堂でも読経などをし、最後に納経所で御朱印を納経帳にもらって1つ目の寺が終了だ。

 次は出釈迦寺。徒歩5分ほどと近い。バックパック姿のフランス人男性と少し言葉を交わした。「4年前に旅行で四国に来てお遍路さんを知って、今回やってみた」という。現在は山梨県在住だけあって、日本語がうまい。驚いたことに一番から全部回っているという。あと少しで結願(けちがん)だ。恐れ入りました。

 この後は七十四番甲山寺(こうやまじ)、七十五番善通寺、最後は七十六番金倉寺(こんぞうじ)。雨がぱらつく中、筋肉痛の足で歩くのは楽ではなかったが、善通寺でお遍路さんたちが集団で読経する様子などが見られて勉強になった。これで残りは八十三カ所。人生を終えるまでにはまだ時間がある。先を急がず、ゆっくり回ろう。

 文・写真 金森篤史

(2020年4月17日 夕刊)

メモ

◆交通
JR善通寺駅へは、山陽新幹線・岡山駅から特急で50分程度。
善通寺へは徒歩20分。

◆問い合わせ
善通寺市観光協会=電0877(63)6315

おすすめ

カタパン

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乃木うどん

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★四国遍路
真言宗の開祖、空海(774~835年)が開いた八十八霊場を巡礼する旅。
起源は平安時代。
江戸時代になると、願掛けなどを目的に庶民にも浸透した。
白衣は行き倒れた時のための死に装束、金剛杖は墓標の代わり、とされる。

★乃木館
1898(明治31)年に竣工(しゅんこう)した旧陸軍第11師団司令部の建物。
初代師団長だった陸軍大将、乃木希典にちなむ。
2階は一般公開されており、乃木大将が使っていた部屋などを見学できる。
現在は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、閉館中。

★カタパン
軍事食料として考案され、元は「兵隊パン」と呼ばれていた。
1896(明治29)年創業の熊岡菓子店で購入できる。
人気があり、確実に購入するには午前中がおすすめ。
「石パン」という小さな種類はかなり堅く、口の中でふやかさないと食べられないほど。
電0877(62)2644

★乃木うどん
乃木大将が、兵隊たちの栄養不足を憂えて考案。
餅や鶏肉が入っているのが特徴。
大川製麺所など、市内の飲食店で食べられる。
電0877(62)0141

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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